ITベンチャー社長のAIブログ
テクノロジーに想像力を載せる
皆さんこんにちは。
引き続き、私の著書『テクノロジー・ファースト〜なぜ日本企業はAI、ブロックチェーン、IoTを牽引できないのか?』を基礎テキストにして、日本のDXについて思うところを綴っていきたいと思います。
どうかお付き合いください。
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オセロから囲碁へ
囲碁AIが強くなりつつあったのとちょうど同じ時期、私は中小IT企業・トリプルアイズの代表取締役に選ばれた。就任にあたり、大手企業の下請け稼業からの脱却が未来をつくると考えていた私は、「コンピュータに精通する」「AIやロボットを開発して、人々を幸せにするサービスを創出する」という理念を掲げた。一言でいえばテクノロジー・ファースト。技術を高めることが、イノベーションを生むと考えたわけである。
ところが栄光に向かっての船出はいきなり難航する。
当時は公共事業を中心としたITバブルが終わりを迎え、業界が全体として方向性を模索している時期だった。1年目のキャッシュフローは火の車で、事務所の家賃を払うのも大変な状態だった。怒涛のように過ぎる日々のなか、ひたすら新技術を開発するチャンスを待ちつづけた。
転機が訪れたのは、事業が少し軌道に乗り、社員が60人くらいにまで会社が成長した2013年のことだ。
ある人の紹介で、東北学院大学の武田敦志先生にお会いした。先生はニューラルネットワークという脳神経を模したプログラムで、リバーシ(オセロ)をするAIを研究されていた。
その武田先生の研究室で、リバーシAIをつくっていた学生が縁あって私の会社に入社することになった。
「もしかしたら」と私は思った。「オセロAIの知識があるなら、他のゲームのAIだってつくれるかもしれないぞ」
すでにチェスはAIが世界チャンピオンに勝利している。
将棋もAIがプロ棋士に勝利した。
当時の私は将棋AIにかなりの関心を持っていた。というのも、私自身、かなりの将棋好きだからだ。子ども時代は兄に連れられ、街の将棋道場で腕を磨いたものだった。ファミコンやスーパーファミコンのソフトでコンピュータ対戦をすることも好きだったが、いかんせん当時のコンピュータは弱かった。
それが、である。たまたま持っていたガラケーに『激指』という将棋ソフトをダウンロードしてプレイしたところ、まったく歯が立たない。すでにコンピュータは劇的に強くなっていたのだ。
まさかこの私が負けるとは…。将棋AIはこんなに強くなっていたのか。
私はAIの進化を肌身に感じた。自分でもやってみたいと思うようになった。
そして囲碁AIの開発を考えるようになった。調べてみると電気通信大学でコンピュータ囲碁大会「UEC杯」を開催している。まずはその大会に出てみようと思った。
2014年、東北学院大学の武田研究室の学生にうちの会社への内定を出したその夏、彼をアルバイトとして雇い、囲碁AIの開発をスタートした。とりあえず碁石を交互に打つところからの開発だった。
『テクノロジー・ファースト』「第1章」より抜粋
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解説
私は会社の設立当初からAI研究をやりたいと思っていました。
小学生か中学生の時に観たSF映画「ターミネーター」の影響です。
この映画で人工知能なるものを知り、プログラミング一つで、人類を救うことができるというストーリーから、プログラマーという職業に憧れを持ちました。
トリプルアイズ設立当初は業務に忙殺され、AIどころではなかったのですが、ひと息ついた時に、コンピュータの将棋プログラムであるBonanza(ボナンザ)のC言語で書かれたオープンソースコードを見て、これなら自分にもできると背中を押されました。
Bonanzaは、2006年5月に行われた第16回世界コンピュータ将棋選手権大会に初出場し、歴戦の将棋ソフトが居並ぶ中で初優勝するという衝撃的なデビューを果たしました。開発者である保木邦仁先生がソフト作成当時は将棋についてはほとんど知らないことも驚きでした。
後に保木先生は電気通信大学大学院の准教授になられて、私もUEC杯でお目にかかりました。
ただし、2013年の時点では、将棋ソフトはすでにプロ棋士を凌駕しておりました。その後 オセロの研究をしていた武田先生に出会い、2014年に囲碁の開発に取り掛かろうと決意します。
まだAIが人間に歯が立たない囲碁AIなら挑戦する余地があると思い、囲碁AIに狙いを定めたわけです。
その当時は、囲碁AIの研究には恐ろしい「闇」があることをまだ知りませんでした。
その話は、また後日いたします。
第4回了
◼︎ 福原智(ふくはら・さとし)プロフィール
株式会社トリプルアイズ代表取締役。BCCC(ブロックチェーン推進協会)理事。
1975年、神奈川県生まれ。山形大学理学部物理学科卒。
大手通信基幹システムのメイン開発プログラマーとして参画。
2008年トリプルアイズを創立。技術者集団を率いて独自のAI研究開発に取り組み、囲碁AI世界大会で2位入賞、国内大会では1位。
著作『テクノロジー・ファースト-なぜ日本企業はAI、ブロックチェーン、IoTを牽引できないのか?』(2018年/朝日新聞出版)は業界内外の好評を得ている。
■基礎テキスト紹介
『テクノロジー・ファースト〜なぜ日本企業はAI、ブロックチェーン、IoTを牽引できないのか?』(発行:眞人堂、発売:朝日新聞出版)
目次
はじめに 〜われわれはどこから来たのか?
第1章 ゲーム盤の向こうにある戦争
−囲碁AI国際大会が突きつけるが覇権争いの行方
第2章 ビッグデータという資源の獲得を競う現在
−4回目の産業革命と、IT開発4度目の波
第3章 テクノロジーへの古い固定観念に囚われた日本
−第5世代コンピュータに始まる挫折の歴史
第4章 産業革命0の本番はこれからの50年にある
−分野を超えて共振するテクノロジー
第5章 ポスト・ディープラーニングを掘り当てろ!
−ブロックチェーンとIoT、AIの本質
第6章 テクノロジー・ファーストのIT企業だけが未来を見る
−IT企業の経営者が持つべき使命
おわりに 〜われわれはどこへ行くのか?